
「3つ質問があります。
①救急隊の人がAEDまたは半自動除細動器で除細動(電気ショック)を行うかと思いますが、どの波形なら行っていいのでしょうか?
②除細動は現場で何回まで行っていいのでしょうか?
③もし除細動メッセージが流れていて除細動適応波形であった時に家族が実施を拒んだ場合はどうしているのですか?」
この疑問にお答えします。
わたしは元救急隊員です。救急隊として長く救急車に乗ってきました。
AED(自動体外式除細動器)や半自動除細動器は救急隊にとって、なくてはならない救急資器材です。
ですので、AED(自動体外式除細動器)や半自動除細動器の使用方法については、救急隊として配属された隊員には、しっかり指導していました。
わたしの息子も救急車に現役で乗って救急出動しています。その情報も取り入れて、近年の救急活動にも当てはまる内容になってるかと思います。
つまり古くて使えないないようではありません!
それではいきましょう。
・救急隊が除細動を行う適応波形とは
・現場で行う除細動の回数とは
・家族の除細動(電気ショック)拒否の対応
救急隊が除細動を行う適応波形とは

「救急隊の人がAEDまたは半自動除細動器で除細動(電気ショック)を行うかと思いますが、どの波形なら行っていいのでしょうか?」
この質問についての回答です。
結論は
・心室細動(Vf)
・無脈性心室頻拍(脈なしVT)
上記の2種類です。
この波形を認めるときは除細動(電気ショック)の適応となります。
※救急救命士標準テキストからの抜粋
心室細動=Vf:Ventricular fibrillation

心室頻拍=VT:Ventricular Tachycardia

注意事項 心室頻拍(VT)を認めた場合は脈を触れること
「心室頻拍(VT)の場合は、脈を触れて脈がないかどうか感じる」こと。
これは鉄則です。
心室細動では、心臓がポンプの役割を果たせない痙攣した状態なので、心臓から血液を拍出することはできません。
一方で、心室頻拍では脈が保たれている(脈あり)場合があります。
どうして心室頻拍の場合は、「脈あり」と「脈なし」があるのかというと、まだ血圧が保たれているケースがあるからです。
言い換えると、完全に心臓機能を停止した状態ではない可能性があるということです。
ですので、そこの判断をしてから除細動(電気ショック)を行う必要があります。
心室頻拍の状態で血圧が保たれていれば脈は触れます。その際は除細動(電気ショック)は実行しないことになっています。
とはいえ、「脈あり」と「脈なし」は連続した概念です。最初は血圧が触れていても、時間経過とともに血圧を保てなくなり、脈が触れなくなります。
つまり、いまは大丈夫でも、2分後は脈が触れないかもしれないことを意味します。
ですので、継続的に脈を触れて、意識状態や呼吸の有無など複合的に判断しなくてはいけません。
この点にも注意しましょう。
注意事項 上記以外の心停止波形も知る

結論
・心室細動
・心室頻拍
・心静止
・無脈性電気活動(PEA)
冒頭で話ししていた波形は“除細動(電気ショック)が必要な波形”でした。それよりも重要なことは、心停止波形を判断することです。
つまり、心肺蘇生を開始しなければいけないことを早期に認識することが重要なのです。
その判断をしなくていけないのが、“心停止波形“です。
心静止

無脈静電気活動(PEA:Pulseless Electrical Actibity)
上記引用図にも記載のある様に「心室の収縮と思われる波形(QRS)が確認できるものの総頸動脈や大腿動脈で脈拍を触知できない状態」をPEAと呼びます。
除細動(電気ショック)を行えたとしても、有効な胸骨圧迫と人工呼吸を実施できていないと助けられた命も助けられません。
ですので、心停止波形は救急隊として必ず認識して判断しなくてはいけないのです。
この点にも注意しておきましょう。
注意事項 自動体外式除細動器(AED)では波形確認できないことも
結論
自動体外式除細動器(AED)には波形確認モニターのないものが多いです。
ですので、波形確認はできず、オートマチックで除細動適応をAEDが行うので、それに従い実施するしかありません。
救急救命士は、解析のタイミングを選ぶことができる半自動体外式除細動器を使用し、傷病者の状況に応じて解析が必要か否か及び解析可能なタイミングであるか否かを判断して解析を行い、除細動を実施することが望ましいこと”
消防機関における自動体外式除細動器(AED)の取扱いについて
総務省消防庁から通知されている「消防機関における自動体外式除細動器(AED)の取扱いについて」には記載しています。
つまり、この通知がなにを意味するのかというと、除細動の適応はしっかりと波形をチェックしてから除細動(電気ショック)するべきということです。
現状の救急車には半自動除細動器が車載されています。とはいえ全ての救急車にではないかもしれません。
わたしが知る消防本部の救急車には、積載されていました。
自動体外式除細動器は、救急救命士が使用するものについては、心電図波形の確認及び解析時期の選 択が可能なものが望ましく、地域メディカルコントロール協議会の助言等に応じて備えるものとする。
救急業務実施基準
消防車両には、AED(自動体外式除細動器)を車載していることがほとんどです。その中には「モニターなし」のものも多くあります。
その点は注意してください。
現場で行う除細動の回数とは

「除細動は現場で何回まで行っていいのでしょうか?」
結論は
現場では除細動(電気ショック)2回です。
これは「救急隊員等におけるBLSアルゴリズム」にも記載されています。
AEDによる発生現場から車内収容までの除細動 AEDを携行している消防職員は、CPRを行いながらAEDによる除細動の準 備を行う。家族にインフォームドコンセント(説明と同意)を行うことが望ましいが必須とはしない。
救急救命士運用隊以外の隊は、除細動は1回(旧型のAEDの 場合は音声指示に従い3回連続の場合もある)1クールとし2クールまで包括指示で の除細動を行うことができる。
除細動を行ったらすぐに胸骨圧迫を開始し音声指示 があるまでCPRを継続し、2クール終了後は速やかに車内に収容する。(現場に長時間滞在せざるを得ない場合は除く。)
なお、発生現場から車内収容までの除細動が原則2クールである理由は、現場滞在時間を最小限にするためである。
救急隊員等におけるBLSアルゴリズム
除細動を優先するあまり、現場滞在時間を延長してしまうようでは、傷病者の根本的治療は行えません。
・現場滞在時間を延長しないように活動を行う。
・その中でできる処置を行いながら搬送する。
これが大前提です。
ちなみに、これは”包括下”と呼ばれるものです。
この反対を医師の指示によって行う行為を“指示下”といいます。
医師の指示なしで行う医療行為 = 包括下
医師の指示(現場では電話)で行う行為 = 指示下
の2つが存在します。
もし、“包括下”で除細動(電気ショック)を2回行った後に除細動を行いたい場合は医師に電話で確認をして「何回まで実施していいか」を確認します。
このようなパターンがオーソドックスな心肺停止傷病者の救急活動かと思います。
注意点 高度低体温時の除細動回数制限
高度の低体温(中心部体温 30℃未満)が疑われる傷病者の場合は、呼吸、脈の確認は30~45秒かけて行う。心停止が確認された場合には速やかにCPRを開始する。
心室細動、無脈性心室頻拍に対する電気的除細動は1回のみ(その後直ちにCPRを再開する。)とし、2 回目以降の除細動の試みは原則として中心部体温が30℃以上となるまでは行わない。
なお、循環の保たれている傷病者では、より愛護的に扱い、不用意 な体動を避け保温に努めること。
救急隊員等におけるBLSアルゴリズム
上記引用文のとおり、高度低体温時は加温をすることが最重要なことです。
なぜなら、低温心筋状態において除細動は効果が低いからです。
そのため、加温を行える環境 = 医療機関 への搬送を急ぐためのアルゴリズムとなっています。
ですので、高度低体温時の除細動回数は制限されています。注意してください。
低体温に起因する心停止患者のACLS処置において、初期の治療形態として、より一層の侵襲的で積極的な加温技術に焦点が向けられている。低温心筋においては、心血管系薬剤やペースメーカー刺激、除細動は反応しないだろう9。
さらには薬物代謝が遅延している(drug metabolism is reduced)。重度低体温にある傷病者において、もし心臓作動性薬剤が繰り返し投与され続けられるとしたら、その薬剤は中毒レベ ルにまで血中濃度が上昇してしまうことが心配される。
このため、もし傷病者の深部体温が30℃ (86°F)以下であれば、注射薬はしばしば制限される。もし深部体温が30℃(86°F)以上でなれ ば、投与間隔をあけた上で注射剤の投与は可能である。
AHA新ガイドライン 第10部(4) 低体温
注意点 各地域事情によって活動も違ってくる
全国には、各市区町村に消防本部が設置されています。
そして、その地域事情によって救急活動の違いが生じます。
・救命センターへの搬送に約10分で到着する地域
・救命センターへの搬送に約40分で到着する地域
例えば上記のような違いです。
このように搬送時間だけみても、地域によって大きく異なります。
そのため、各地域に沿った方法で救急活動を変更していく必要があるのです。
この各地域の特徴に沿った救急活動の取り決めを”プロトコール”と呼びます。
プロトコール(ぷろとこーる、protocol)とは、あらかじめ定められている規定、手順、試験/治療計画などのことである。プロトコール、臨床研究実施計画書ともいう。
看護roo!
例えば、がんであれば関連医学会によってステージ別に標準治療が定められており、その定められた標準治療法のことをプロトコールと呼ぶ。
ですので、「現場では除細動(電気ショック)2回」というのは原則であることに注意してください。地域事情によって救急活動も変わります。
家族の除細動(電気ショック)拒否の対応

「もし除細動メッセージが流れていて除細動適応波形であった時に家族が実施を拒んだ場合はどうしているのですか?」
結論
救急活動プロトコールに沿った救急活動を継続する
これです。もし、明確な書面で「患者本人または患者の利益にかかわる代理者の意思決定をうけて心肺蘇生法をおこなわないこと」の記載がある場合は、蘇生処置を行いません。
しかしながら下記のような状況の場合は早期に心肺蘇生を実施します。
・明確な書面がない
・家族と連絡が取れない
・家族が現場に居合わせていても、明確な蘇生処置の拒否表示がない
救急隊は死亡判断をすることはできません。
そして、明確な蘇生処置の拒否を家族が意思表示していない場合に蘇生をせずに不搬送とした際に、現場に居合わせていなかった家族から「なぜ病院へ搬送しなかったのか」と消防署へ苦情が入ったケースがありました。
ですので、救急活動プロトコールに沿った救急活動を継続することが大切です。
・心肺蘇生を開始する。
・除細動(電気ショック)適応であった場合は実施する。
・救急救命士が同乗していれば、救急救命処置を行う。
・適切な医療機関へ搬送する。
上記のような活動になるかと思います。
とはいえ、完全に心肺蘇生拒否の意思表示がある場合でも、除細動適応波形を認める場合や、心肺停止になったのが本当に救急隊現着直前であり、「目撃のある心肺停止」の場合は、家族に十分な説明をした方がいいかと思います。
救急現場に駆けつけ傷病者に対して適切な処置(救急医療)を行い速やかに救急車で病院へ搬送する部隊のこと。
Wikipedia
上記のように救急隊の本質はここにあります。
救急車を要請した以上は、その本質に従い病院へ搬送することが必要だと思います。
まとめ:AED(自動体外式除細動器)の基礎知識を学び立派な救急隊員になる
救急隊にとって、AED(自動体外式除細動器)は生死を争う傷病者を助けるための必須救急資器材です。
使い方をマスターし救急現場で活躍できる救急隊員を目指しましょう。
それでは、今回は以上です。
下記記事では救急車に積載の救急資器材を紹介しています。
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